インスウオッチVol.718 2014.05.05より転載

投稿日時 2014-5-8 8:46:10 | トピック: comment@inswatch

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【3】「金融業法を読み解く目」(2)             増島 雅和
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 保険代理店に対する「規模・業態に応じた規制」の意味

 本通常国会に提出された保険募集規制の改革法案は、保険代理店について、そ
の規模や業態に応じて規制の深度を異なるものとすることに、これまでの保険募
集規制と大きく異なる特徴が見られます。

 これまでの保険募集人の規制は、自己・特定契約規制や銀行窓販規制といった
例外を除き、資格による規制のほかには、行為規制と呼ばれる規制しかありませ
んでした。行為規制というのは、「○○をしてはならない」という形で、保険募
集人に対して一定の行為を禁止する規制です。保険募集の規制は、いわば「べか
らず集」による規制で、べからず集に抵触しなければ保険募集規制を遵守したこ
とになるという体系でした。

 このシンプルな規制体系は、個々の「保険募集行為」つまり、顧客に対して保
険商品を販売するプロセスに対して適用されるルールとして、すべての保険募集
人に対して等しく適用されるものでした。

 これに対して、改正保険業法の定める保険募集規制は、同じ保険募集人という
資格で保険募集を行っていても、その規模や業態によって、保険募集人が従わな
ければならないルールが異なってくるという規制体系を採用しています。

 「規模に応じた規制」とは、保険募集人の人数に応じた規制と考えると分かり
やすいでしょう。改正保険業法のもとでは、営業職員として1社の保険商品を販
売している保険募集人、保険募集人を3人程度抱える保険代理店、保険募集人を
30人抱える保険代理店、保険募集人を300人抱える保険代理店では、保険業法が
求める「従うべきルール」が違ってきます。

 「業態に応じた規制」は、保険募集人が採用する事業モデルに応じた規制と考
えると分かりやすいです。つまり、1社専属代理店、乗合代理店といった差はも
ちろんのこと、見込み顧客の送客を受ける方法やブランド戦略など、マーケティ
ングの方法によって、保険業法が求める「守るべきルール」が違ってくるという
世界です。

 これまでも、現実のビジネスの世界では規模が違えば採れる事業戦略も異なっ
てくるし、マーケティングの方法の違いによって実際のビジネスのやり方が異な
ってきたということは当然にあったと思います。しかし、それは純粋にビジネス
の視点から方法が異なってきたというのみで、保険業法がそのような違いを強制
してきたからというわけではありません。このような世界が許されていたのは、
保険募集規制が消極的な「べからず集」として構成されていたからであるという
ことができます。

 改正保険業法の世界では、純粋なビジネスの視点によるものだけではない保険
業法の要請として、各保険代理店が、ビジネスのやり方を規律していかなければ
ならないことになります。規律というのは往々にしてコストという形で事業の収
益性に影響を及ぼします。すなわち、これまで規模や業態にかかわらず同一のル
ールであったことによって一律だった規制対応コストが、規模や業態に応じて規
制対応コストが変化するという新たな時代に入ったことになります。

 保険募集事業にとって規制対応コストは、募集人資格を維持するために必ず負
担しなければならない費用といえます。採用している事業モデルによっては、新
たな規制対応コストを前提とすると、これまでの売上規模では持続可能ではない
という結論が導き出されることもありえるでしょう。それぞれの保険代理店は、
この新たな保険募集規制の時代に対して、これまでの延長線上ではない思考で、
自社の事業モデルの持続可能性について、改めてを考えていくことが必要になる
といえます。
              (森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士)

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【4】保険、一歩ずつ(40)                  栗山 泰史
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 比較推奨販売を行う乗合代理店の「重い義務」

 新しい保険募集ルールを定める保険業法の改正案が国会に上程されている。法
改正は世の中に大きな変化をもたらす。例えば、個人情報保護法が施行された時
のことを思い出してみよう。当初、多くの人が「実状を無視して、何と馬鹿なこ
とをするんだろう。」と感じたのではないだろうか。恥ずかしながら、筆者も当
時、あるところに「平成の『生類憐みの令』である。」と記した記憶がある。し
かし、実際には、全く異なる経過を辿り、今やITの進展の中で個人情報を守る
ことの重要性は大きく高まり、個人情報保護法は社会に必要不可欠な法律になっ
ている。

◇保険業法改正の背景
 今一度、なぜ金融審報告書によって保険募集ルールの変革がまとめられたのか、
その背景を辿ってみよう。
 振り返れば、1996年の金融ビッグバンにおける保険自由化を皮切りに、商品・
料率の自由化や生損保の相互参入など、様々な制度上の変化が生じた。しかし、
そのどれもが、代理店にとってはどこか「空中戦」のように感じられる問題であ
ったのではないだろうか。代理店にも深い関係はあるのだが、結局は保険会社に
任せて、何らかの説明を受けてから対応を考えればよい、またはそうするしかな
いというものがほとんどであった。しかし、今回の保険募集ルールの変革は、ま
さに代理店を直撃し、保険会社に頼ることなく代理店自身が主体的に対応しなけ
ればならない制度上の大きな変化である。

 1996年の保険業法の改正は56年ぶりに行われた大改正であった。この時の法改
正は、改正という言葉に違和感を覚えるほど、保険制度を根本的に変えることに
なった。ところが、保険募集のみは、この時、それまでの「保険募集の取締に関
する法律(募取法)」がほとんどそのままの形で改正保険業法に横滑りで入った
ために、その姿を変えることはなかった。なぜなら、その時点での主な保険募集
主体である生保の営業職員、損保のプロ代理店、自動車関連代理店、企業代理店
等を想定し、併せてそれらと保険会社との関係を考えると、保険契約者保護上、
急いで保険募集を制度的に改正する必要性がなかったからである。

 しかし同時期に、銀行や証券では、金融商品に関する窓口職員の顧客への対応
の仕方を大きく変える法改正がなされていた。銀行法の改正と金融商品取引法の
制定がそれである。この結果、銀行や証券での顧客応対は根本的に変わり、顧客
対応ブースが設置されるなど店舗内部の構造や風景さへも変わっていった。

 保険募集に関する法改正はほとんどなかったが、それから20年近くの間に、実
態的な保険募集には大きな変化が生じた。銀行が窓販を本格的に行うようになり、
来店型の保険ショップの中には保険会社にも匹敵する新契約保険料を集めるもの
も登場している。ダイレクト販売も定着して久しい。これらが、ここまで大きな
存在感を示すことは、当時、多くの人が想像もしていなかったことである。

 そして、そうした新しい募集の担い手が大きな成長を遂げた最も大きな理由は、
国民の期待やニーズがそこにあったからと言ってよいだろう。国民の中に「ハン
コを押しておくから後は任せた。」という保険加入のスタイルを止めて、「保険
を比較して自身に最も適切な保険を選ぶ。」というスタイルに行動を変える層が
現れ始めた。その背景には、保険商品の多様化がある。昔のように「どこの会社
の保険でも内容は同じ。」と考える国民が少なくなってきたのである。

 しかし一方で、こうした新しい募集の担い手に対する苦情が国民生活センター
等にまで寄せられるようになってきたという実態がある。昔は「代理店の不祥事
は保険会社の責任」ということで済んできた。しかし、銀行や大型の来店型ショ
ップは、法的立場は保険会社の代理店であっても、実態的に保険会社の「教育・
指導・管理」が及ぶ相手では全くない。

◇新しい保険募集ルールの二つの柱
 「大きな国民の期待がある、しかし、放置できない問題もある。」このような
状況の中で、新しい募集ルールが法改正によって生まれる。新しいルールの柱は、
二つある。

 一つは、一人ひとりの保険募集人が募集の現場で顧客にどう向き合うかという
ことである。これが、意向把握義務と情報提供義務である。代理店主であれ、使
用人であれ、生保の営業職員のような保険会社の社員であれ、およそ保険募集を
行うすべての人が法定の義務としてこれを守らなければならない。ただし、この
一人ひとりが守るべき義務は平等の内容ではない。乗合代理店のうち「比較推奨
販売」を行う代理店の募集人だけは、これに伴う追加の「重い義務」を負うこと
になる。

 もう一つは、顧客対応の現場での義務がしっかり守られるように、代理店とし
ての体制整備が求められるということである。つまり、社内規定を整備し、使用
人への教育を徹底し、内部監査を体系化するというPDCAサイクルが求められ
る。これが体制整備義務として法定されるのである。意向把握義務と情報提供義
務が一人ひとりの募集人の現場での行動に関するものであるのに対し、体制整備
義務は、代理店としての組織的な義務、すなわち、重要な経営課題と捉えてよい
であろう。

 意向把握義務と情報提供義務と同様に、体制整備義務も平等の義務ではない。
募集人の「業務の規模と特性」に応じて義務の内容は異なる。まず、生保の営業
職員や専属代理店は、金融庁が改正保険業法の説明のために作成した文書の中で
「従来型の保険募集人」と位置づけられ、「保険会社による管理・指導を受ける
ことを前提とした体制整備」でよいとされている。いわば「軽い義務」なのであ
る。

 では、乗合代理店の体制整備義務はどうなるのであろうか。大きな分岐点は
「日常的に比較推奨販売」を行うかどうかである。「日常的に比較推奨販売」を
行う乗合代理店は、それに伴う「重い義務」を負うことになる。裏返せば、「日
常的に比較推奨販売」を行わない乗合代理店は、専属代理店と同様に「従来型の
保険募集人」として「軽い義務」ですむと考えてよいのではないだろうか。

◇比較推奨販売を行う乗合代理店の「重い義務」
 ところで、保険業法改正案を見れば、「特定保険募集人」という募集人が登場
する。その定義は「その規模が大きいものとして内閣府令で定めるものに限る」
とされており、具体的な内容は業法が改正された後の内閣府令作成作業に委ねら
れている。いずれにしても、この「特定保険募集人」は金融庁の直接の監督が及
ぶ代理店であり、法的な位置づけは保険仲立人と同じである。当然のことではあ
るが、その義務は圧倒的に重い。

 このように見ていくと、新しい募集ルールの下での体制整備義務の軽重を考え
ると、代理店は、1)従来型の保険募集人、2)比較推奨販売を行う乗合代理店、3)
特定保険募集人の3つの区分に分けられる。1)は保険会社による管理・指導、3)
は金融庁による直接の監督を受けるのだが、2)はとりあえず代理店自身に委ねら
れている。

 「比較推奨販売を行う乗合代理店」の義務は、顧客対応を行う現場での募集人
の義務が重く、それに応じて、組織としての体制整備義務も「重い義務」になっ
ている。それにも拘わらずこのゾーンは保険会社の手が及ばず、特定保険募集人
のように金融庁の手も及ばない。ここだけが代理店自身の責任に委ねられており、
監督という点で、どこか宙に浮いているような感じなのだ。

 ここから先、比較推奨販売を行う乗合代理店はどこへ向かうのだろうか。国民
の期待は大きく、ここに至る金融審議会の検討の経緯を見れば、行政の期待も相
当大きなものがある。その一方で、「従来型の募集人」のように保険会社に頼る
ことなく、「特定保険募集人」のように定期的な行政による監督もないまま、だ
れにも頼らず自ら「重い義務」を負わねばならない。この義務に耐えかねて比較
推奨販売を断念するか、または、一部の保険商品に関してのみ比較推奨販売を継
続するか、どこまでも頑張って対応するか、いずれにしても難しい選択が目前に
迫っている。

 そして、行政当局は、このゾーンにどう向き合うのであろうか。日常的な監督
の対象にするには現状での数が多すぎる。結局は、保険会社を通じて比較推奨販
売に関しても監督することになるのか、それとも、特定保険募集人の定義を次第
に拡大して「比較推奨販売を行う乗合代理店」の多くがこれに該当する形にする
のか、それとも何か別の手立てが出てくるのか、いずれにしても、比較推奨販売
を行う乗合代理店のうち特定保険募集人に該当しないものが属するゾーンのこと
が気になる制度改正なのである。
                 (丸紅セーフネット常勤監査役)文責個人



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