インスウオッチ Vol.1141 2022.06.20 https://www.inswatch.co.jp/
前回>http://cho.eforum.biz/modules/news/article.php?storyid=210
バックナンバー>https://bit.ly/3mi2CJN
前回、代理店業界が生産性の停滞から失われた20年になったとお話ししましたが、それに気づくきっかけは、本コラムで財務診断の新旧を解説するなかで、以下のように、診断参加社の売上規模は伸びているにも関わらず、生産性がほぼ横ばいに推移していることでした。
上段2002→2003年データ 下段2016→2020年データ
◆生産性診断(売上高÷期末総従業員数)単位万円/人
レベル5 レベル4 レベル3 レベル2 レベル1
1050以上 860以上 710以上 530以上 530未満
1000以上 820以上 710以上 600以上 600未満
◆安定性診断(売上高) 単位万円
レベル5 レベル4 レベル3 レベル2 レベル1
5300以上 3300以上 2400以上 1600以上 1600未満
12000以上 9000以上 8400以上 7600以上 7600未満
私は1996年、55歳で独立し、2015年、75歳を機にコンサルの現場を離れましたが、〈アクティブな中小企業と共に歩む〉をモットーに、前向きに事業に取り組むプロ代理店の皆さんと、年に平均すると2、3社程度、コンサルをする機会を頂きました。
この間、保険会社と代理店の間はオンラインで繋がり、代理店にパソコンがあるのが当たり前の世界になり、コンサル先でもITを活用して生産性を上げる組織を目撃してきたので、20年間にわたり生産性が停滞しているという上記のデータに違和感を覚え、調べるキッカケになりました。
この財務診断は、〈トップ1%を目指す〉代理店に、ベンチマークを提供することが目的で、具体的には、当方で開発した財務シミュレータのKGI(経営目標達成指標)用に開発されたものです。ちなみに、前々回皆さんに提供した〈骨太の方針〉も、その仕組みになっています。
〈2022年度骨太の方針〉
http://cho.eforum.biz/pdf/2022plan.pdf
上記の財務診断は、トップ代理店同士の比較では、ある程度の信頼性はありますが、プロ代理店全体の傾向を表していないので、代理店チャネルごとの保険料、手数料率、 募集人数、代理店数といったデータを探しましたが、残念ながら20年間を比較できるようなデータは見つけられませんでした。
損保の募集チャネルと効率性に関する統計分析については、以下が有名ですが、ここでもデータの限界が語られています。重回帰分析による研究ですが、若いころに企画庁で、汎用機を徹夜で使って、物価の分析をした時の、データ収集とデータクリーニングに苦労したことを思い出します。
わが国損害保険業における募集チャネルと費用効率性 2011.08.25
https://www.jstage.jst.go.jp/article/giiij/73/2/73_85/_pdf
代理店チャネルは、扱保険料で損保では9割を超え、生保でも存在感を増す中、生産性の向上は保険業界にとって、大きな課題の一つです。そのためには、先ずは現状を正しく分析することが先決です。現在、分析手法も大きく進化を遂げており、業界が連携して取り組むべきでないかと考えます。
具体的には、損保協会、生保協会、保険学会などが音頭をとってチームをつくり、代理店の個別データなどをベースに、ビッグデータ解析により、代理店チャネルの構造を分析し、生産性を高めるための方法論を探るといったごとが出来ると理想ですが、如何でしょうか?
追記
今回紹介した上記論文では、個人代理店の占める比率が高い保険会社ほど事業費率が低いとのこと(p102参照)。実は現在でもマクロでみると、個人代理店の方が法人代理店より、保険料で見た生産性は若干高いようで、単純に個人代理店を整理統合すれば良いということでもなさそうです。
2020年度データ 火災、自動車、損害の扱保険料ベース
保険料 募集人 生産性 代理店数 規模
法人 62640 194 323 9.5 20.5
個人 3305 10 331 7.0 1.5
合計 65945 204 323 16.5 12.4
億円 万人 万円/人 万店 人/店
2020年度(令和2年度)末の代理店統計について
https://bit.ly/39rkWO1
(経営数理研究所代表 インスウオッチ客員研究員)
http://cho.eforum.biz/modules/xoopsfaq/index.php?cat_id=7
次回>http://cho.eforum.biz/modules/news/article.php?storyid=213
インスウオッチ Vol.1139 2022.06.06 https://www.inswatch.co.jp/
前回>http://cho.eforum.biz/modules/news/article.php?storyid=209
バックナンバー>https://bit.ly/3mi2CJN
夏の風物詩となったRINGの会オープンセミナーは、第23回が6月18日に、オンラインとパシフィコ横浜のハイブリットで開催されます。この下から申込みが出来ますので、是非、ご参加下さい。
今回のメインテーマは「NEXT MOVE」〜新たな時代に次の一手を〜です。丁度20年前、第4回のオープンセミナーで、2002年に始めたオンラインアンケート調査の背景について、私が説明したpower pointを以下示しますが、今回のテーマと重なるところもあり、大変興味深いです。
調査の背景 夜明け前を捉える
http://cho.eforum.biz/png/01.png
金融ビックバンとITビックバンを起点に、保険業界も生産性が向上し、以上のような好循環が回り始めるというもので、オープンセミナーには今も昔も、時代の変化を先取りしアクティブに動こうとされる皆さんが参加しているので、それに向けてのエールでしたが、あまりに楽観的過ぎました。
当時のITを巡る状況は、「我が国が5年以内に世界最先端のIT国家となる」というe-Japan戦略が出て、ITに明るい未来を託していた時でしたが、その後の結果はご存じ通りの状況で、官邸もさすが恥ずかしいのか、現在リンクが外されていて、e-Japan戦略の本文に辿りつけません。
首相官邸、「e-Japan重点計画-2002」を公開 2002/6/27
https://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2002/0627/ejapan.htm
このような状況を受けて、損保系代理店業界の20年間は、ザックリ言うと、代理店扱保険料は1割増、募集人は2割増で、生産性は1割減、一方代理店数は半減して、募集人規模は5人から12人に拡大したものの、規模の拡大が生産性の向上に結び付いていません。
保険料 募集人 生産性 代理店数 規模
2002年82402 164 502 32.3 5.1
2020年90039 204 441 16.5 12.4
億円 万人 万円/人 万店 人/店
損害保険事業の現状と課題 2004/01/16
https://bit.ly/3MxUXCH
2020年度(令和2年度)末の代理店統計について
https://bit.ly/39rkWO1
このような代理店業界全体でみた生産性の停滞は、総体として代理店手数料率の高止まりを生んでいます。一方保険会社側を見ると、3メガ集約の過程で合理化が進み、2000年代前半にかけ社費が下がり、その結果、事業費率は2005年に向け若干低下しましたが、その後一進一退という状況です。
損保協会調べ 会員会社を集計した事業費率の推移
https://bit.ly/3xej0SI
我が国は外圧により動く国と言われますが、外圧による保険の自由化を、IT化の遅れなどから生かせず、事業費率の推移を見る限り、残念ながら失われた20年となりました。
最初に示したpower pointの〈金融〉ビッグバンを〈コロナ禍〉に、〈IT〉ビッグバンを〈DX〉に書き変えると、正に今の状況と重なります。今回コロナ禍という外圧を生かして、DXを進め、今度こそ、好循環に繋げたいと思います。
(経営数理研究所代表 インスウオッチ客員研究員)
http://cho.eforum.biz/modules/xoopsfaq/index.php?cat_id=7
次回>http://cho.eforum.biz/modules/news/article.php?storyid=212
インスウオッチ Vol.1137 2022.05.23 https://www.inswatch.co.jp/
アフターコロナを見える化〈2022年度骨太の方針〉プレゼント
前回>http://cho.eforum.biz/modules/news/article.php?storyid=208
バックナンバー>https://bit.ly/3mi2CJN
5月末を控え、2021年度の3月期決算も纏まっていると考えますので、先ずは、以下の10個のデータを、決算書等で確認してメモして下さい。
売上高(万円)
2018年度 2019年度 2020年度 2021年度
営業利益額(万円)
2019年度 2020年度 2021年度
期末総従業員数(人)
2019年度末 2020年度末 2021年度末
次にメモを見ながら、2019年度、2020年度、2021年度の3期分それぞれ、以下の4つの指標を計算して、該当するレベルの数字をメモして下さい。
◆生産性診断(当期売上高÷当期末総従業員数)単位万円/人
レベル5 レベル4 レベル3 レベル2 レベル1
1000以上 820以上 710以上 600以上 600未
◆成長性診断(対前年売上増加率)単位%
レベル5 レベル4 レベル3 レベル2 レベル1
15.2以上 8.3以上 4.9以上 1.4以上 1.4未満
◆安定性診断(当期売上高) 単位万円
レベル5 レベル4 レベル3 レベル2 レベル1
12000以上 9000以上 8400以上 7600以上 7600未満
◆収益性診断(当期営業利益額÷当期売上高)単位%
レベル5 レベル4 レベル3 レベル2 レベル1
9.0以上 4.4以上 1.7以上 0.3以上 0.3未満
最後に、2019年度、2020年度、2021年度の3期分それぞれ、メモしたレベルの数字を合計して、3段階の格付け(AAA、AA、 A)を行なって下さい。
◆総合評価(4つの評価レベルの合計点:20点満点)
AAA AA A
14点以上 11点〜13点 10点以下
この診断は、2016年から2020年にかけて、私が関係した売上高5千万円以上の専業代理店54社のデータがベースです。前回述べたようにAAAは総合的に見て専業代理店のおおむねトップ1%に位置すると考えています。
TOP1%代理店の成功要因とケーススタディ
https://www.inswatch.co.jp/books/book150.html
診断結果は如何でしたか?この診断はビフォアーコロナのデータがベースとなっているので、ビフォアーコロナと対比して、コロナ禍による影響を測定するものです。
コロナ禍の直撃を受け、この2年余り、多くの代理店が困難に直面しましたが、読者の皆さんは、現在それを克服し、アフターコロナに向けての取組みを始められていると考えています。
その取り組みをエクセルのワンシートで見える化した〈2022年度骨太の方針〉を作りましたので、記入後のシートをご提供頂けることを条件に、ご希望の方に差し上げます。骨太の方針は、コピーをスタッフに配ることをお勧めします。自社のベクトル合わせに大変有効です。
2022年度骨太の方針
http://cho.eforum.biz/pdf/2022plan.pdf
エクセルシートご希望の方は、以下にメールでご連絡下さい。ご提供を受けたデータについて、分析結果などを公表する場合は、ご了解頂ける場合を除き、匿名といたしますので、よろしくお願いいたします。
連絡先 cho@mxa.mesh.ne.jp 長 忠(ちょう ただし)宛て
(経営数理研究所代表 インスウオッチ客員研究員)
http://cho.eforum.biz/modules/xoopsfaq/index.php?cat_id=7
次回>http://cho.eforum.biz/modules/news/article.php?storyid=210
インスウオッチ Vol.1135 2022.05.09 https://www.inswatch.co.jp/
前回>http://cho.eforum.biz/modules/news/article.php?storyid=207
バックナンバー>https://bit.ly/3mi2CJN
次回は番外編として代理店の皆様に、財務診断でコロナ禍での経営状況を確認できる機会を提供しますので、ご興味のある方はこのコラムで診断の流れを事前勉強しておいて下さい。
インスウオッチが皆様に提供している財務診断は、財務診断の定石通り4つのテーマに分けていますが、プロ代理店の実情に合せ、それぞれを一つの指標に絞り込んで5段階評価を行なった上で、その総合点で格付けを行なうもので、データが揃えば5分程度で超簡単に財務診断が出来ます。
財務診断の評価方法
http://www2.biglobe.ne.jp/~cho/agresch0201/img004.GIF
2002年から2003年にかけて実施した最初のアンケートに回答頂いた、97社のデータを集計した診断テーブルを示しますのでご覧下さい。この中で診断指標として安定性に売上高を、収益性に役員報酬を加味していますが、これは財務診断の定石から外れているので以下理由をお話しします。
◆生産性診断(売上高÷期末総従業員数)単位万円/人
レベル5 レベル4 レベル3 レベル2 レベル1
1050以上 860以上 710以上 530以上 530未満
◆成長性診断(対前年売上増加率)単位%
レベル5 レベル4 レベル3 レベル2 レベル1
15.7以上 8.8以上 3.3以上 -0.8以上 -0.8未満
◆安定性診断(売上高) 単位万円
レベル5 レベル4 レベル3 レベル2 レベル1
5300以上 3300以上 2400以上 1600以上 1600未満
◆収益性診断((役員報酬額+営業利益額)÷常勤役員数)単位万円/人
レベル5 レベル4 レベル3 レベル2 レベル1
1060以上 790以上 580以上 430以上 430未満
安定性について定番は自己資本比率ですが、人が財産の代理店経営に相応しくないので、種々検討の結果売上高としました。当時手数料自由化目前で、売上規模が存続条件となりそうというのが主な理由でしたが、20年たった今も代理店の集約化は道半ばなので、現在も売上高を採用しています。
収益性に役員報酬を加味したのは、小規模企業では家計との混同や色々工夫?して赤字決算といったケースが多いことを考慮したものでしたが、アンケートのふたを開けたら、利益をキッチリ計上している組織が多数派だったので、その後の診断では定番の売上高営業利益率に変更しています。
上記の診断テーブルを見て頂くと、20年前ながらレベル5(上位20%)では、生産性で1000万円、売上で5000万円を超えていて、インスウオッチに多くのトップクラス代理店が参集されたことが、具体的数字で確認出来て、大変喜んだことを記憶しています。
インスウオッチの編集方針のトップに〈読んで頂きたいのは、TOP1%を目指す代理店経営者〉と掲げており、それが功を奏した結果となりました。次に取り組んだのは、TOP1%代理店のベンチマークになる診断データを求めることでしたが、2010年に曲りなりにも実現しました。
2010年にインスウオッチ10周年記念として、損保ジャパン、東海日動、富士火災、日本興和、AIUの5社をスポンサーとしたマルチクライアント調査を実施しましたが、各社へのヒヤリングから売上高五千万円を足切りにすると、概ね専業代理店売上の上位3%となることが判明しました。
そこで2010年調査では、参加5社の保険会社から売上高五千万円以上の代理店リストの提供を受け、60社から回答があり、その分析結果を以下の報告書にまとめ出版しました。この調査を受けて、それ以降の財務診断については、売上高五千万円以上のデータがベースとなっています。
TOP1%代理店の成功要因とケーススタディ
https://www.inswatch.co.jp/books/book150.html
(経営数理研究所代表 インスウオッチ客員研究員)
http://cho.eforum.biz/modules/xoopsfaq/index.php?cat_id=7
次回>http://cho.eforum.biz/modules/news/article.php?storyid=209
インスウオッチ Vol.1133 2022.04.18 https://www.inswatch.co.jp/
前回>http://cho.eforum.biz/modules/news/article.php?storyid=206
バックナンバー>https://bit.ly/3mi2CJN
2000年8月に購読者246名でスタートしたインスウオッチは、中崎さんのアナログの営業力に加え、サイトの充実、無料版の提供、保険の広場へのバナー設置などデジタルでの集客も加えることで、2001年末には購読者が600名を超えました。
2002年のinswatch
http://www2.biglobe.ne.jp/~cho/inswatch/inswatch190.htm
購読者の8割の約500名が代理店経営者ということで、ある程度数が揃ったので、オンラインアンケートでデータを収集して、自社のポジショニングを確認するための財務診断を読者に提供すると共に、合せてプロ代理店の成功要因を探ることを目的に、第1回目を2002年1月に実施しました。
そのアンケートフォーマットは以下の通りです。現在ではGoogleなどで手軽にしかも無料でアンケートのサービスが利用できますが、当時は自前で作る必要があり、前回お話ししたように、稲葉さんがWEBのフロント部分、私の息子がバックエンドという分担でプログラムを組みました。
2002年、2003年オンラインアンケートフォーマット
http://cho.eforum.biz/pdf/2002anke.pdf
このアンケートの第1の目的は、財務診断を読者サービスとして提供することでした。税理士や中小企業診断士などが提供する財務診断は、指標が多岐にわたり、複雑で分り難いものなので、何とか分り易く簡単にできないかと考え、5分で診断が出来る超簡単なものに仕上げました。
合せて、財務的データだけでなく非財務的データも盛り込み、両者の関連を分析することで、プロ代理店の成功要因を掴もうと考えました。非財務的データについては、誰に、何を、どのように(Who,What,How)という観点で整理して、以下の4項目を収集しました。
誰に(個人客か法人客か)
何を(損保か生保か)
どのように(代理店規模の選択:個業か家業か企業か)
どのように(保険会社の選択:専属か乗合か)
プロ代理店の成功要因を掴むのに最低限必要なデータでしたが、当時は顧客データベースが整備されている代理店は少数で、契約件数はなんとか掴めるが正確な顧客数は不明という代理店も多く、アンケートでは幅で示して選択してもらうなどの工夫をしました。
アンケートを適切に行なうのは結構難しいですが、アンケートで検証したい仮説を先ずしっかり立てることが重要です。ここで立てた仮説は、成功しているプロ代理店は、法人、生保に注力した大型の乗合代理店と想定して、それを検証するのに必要なデータを収集しました。
アンケートは、2002年正月にURLを告知して実施、63社から回答を頂きました。500社を対象に回収率10%で50社を目標にしていましたので、満足する結果になり、早速集計に取り掛かり、自己診断チャートという形で、財務診断結果を回答代理店にフィードバックしました。
その後、財務診断の結果でAランク(5段階評価上位20%)入りした代理店に、追加のアンケートを行ない、経営状況と将来像をお聞きしました。このアンケートは、簡易版にした財務診断の切れ味の確認も兼ねていましたが、TOP代理店が的確に抽出されていて一安心しました。
(経営数理研究所代表 インスウオッチ客員研究員)
http://cho.eforum.biz/modules/xoopsfaq/index.php?cat_id=7
次回>http://cho.eforum.biz/modules/news/article.php?storyid=208